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音楽の話。from:tokyo, japan

Jazz (or Not Jazz) Drummer

Black Messiah

夏フェスでディアンジェロとそのドラマーが気になった方へ送る現代ジャズドラマー事始め

はじめに

今年の夏フェス、そして来日でこの夏一番と言っていいほど話題をさらったD'AngeloとそのバンドVanguard。僕はばっちりチケットを取り逃しました。

今回の来日はなんといってもバック陣が豪華。ベースのPino Palladinoと言ったら世界レベルで指折りのスタジオプレイヤー。Elton JohnJeff Beckといった大御所とやったと思えば2013年にはNine Inch Nailsのアルバムにも参加ともうわけがわからないんだけども、僕の中のイメージではJohn Mayer Trioですかね。

 

そのPinoとコンビを組んで来日したドラマーがChris "Daddy" Dave

ジャズドラマーとしての活躍だけでなく AdeleとかEd Sheeranといったポップ勢のアルバムにも参加して最近引っ張りだこのドラマーです。ミシェル・ンデゲオチェロの『Comfort Women』に参加したり、Robert Glasperのトリオ作、そして昨年Summer Sonicにも来日したRobert Glasper Experimentの『Black Radio』に参加(このバンドはもう抜けてしまっていて昨年来日時ドラマーはのMark Colenburgでした)して特に名を上げたように思う。ちなみにAdeleの『21』にはPinoも参加しています。来日公演を見れた人が本当に羨ましい。

 

で、なんで今ジャズ・ドラマーなのか。

すごく簡潔に言ってしまうと、今ジャズドラマーがヒップホップとかのサンプリングで組み上げられたビートを人力で叩くってのがアツい、からです。「ちょっと待てジャズドラマーがなんでそんな事になってんだよ?」って思うかもしれないけれどなんやかんやで、そうなんだ。

ここを掘り下げていくと話が長くなってしまうので至極適当にまとめると、

90年台のネオ・ソウルと呼ばれるような動きとかヒップホップのプロデューサー集団というかのSoulquariansWikiあり)があって、、、、みたいな歴史的な側面と、

アメリカではアカデミックに音楽を学ぶ場所として「ジャズ」が機能していて、そこ出身だからみんな「ジャズ」って付いちゃう、みたいな側面があると思う。

僕はどっちかっていうと後者の影響力が大きいと思ったりもする。

もちろんジャズドラマー全員がこのトレンドに向かっているわけではないという事は書いておかねばなるまい。ただそういう人が最近話題で、「ジャズ・ドラマー」なんだ。

 

とりあえず聴いてみよう

いきなりドラマーに行く前にまずはJ DillaJay Deeのビートを聴いてみよう。最近の打ち込み再現系のドラマーはみんなJ Dillaが好きだ。なんでそんなに好きなんだってぐらい好きだし尊敬している。彼が打ち込んだ所謂8ビートとかではなく独特のつんのめったようなビートを聴いてからドラマーを聴くと「あぁこうしたかったのか」って分かるきっかけになるかもしれない。

 

 

そして本題のChris "Daddy" Dave。0:40~から早速独特のつんのめった感じが出てくる。この粘っこい感じが特徴的で、彼の場合はデジタルに正確なグリッドというよりもアナログに"ずらす"という行為をしている感じがする。途中盛り上がってくると結構むちゃくちゃに叩いている感じがするけれど、一拍目のバスドラだけは外さずにキープしている。

 

彼のセットの特徴はなんといってもタムが無いこと。スネア&スネア&スネア。そして来日公演でも気になった人がいるかもしれないが、彼が本気の時は両サイドにスタックのスパイラル・シンバルが立つ。このシンバルはZildjianのもので、チャイナシンバルみたいな音がする。たまに勢い良く叩きすぎて体がぶつかってしまうのがキュート。サウンドハウスにも売っているので「我こそは」という方はどうぞ。

 

続いて昨年Summer Sonicで来日したRobert Glasper ExperimentのドラマーMark Colenburg。彼はChris Daveに続いて二代目という形でこのバンドに入ったわけだけど、Chris Daveと違うのは彼はものすごくデジタルな感触がする。グリッドに正確でそのグリッドがめちゃくちゃ細かい感じ。

まずはアルバムの音源を聴いて、「これ打ち込みかサンプリングでしょ?」と思ってからライブ映像を観ていただきたい。めっちゃ速い。

 

 

最新のドラムソロ映像を観てもグリッドに正確に叩いていること、そして早回しかと思うくらいめちゃくちゃ手が回っていることが分かる。ドン引きだ。

 

 

次に紹介するのはMark Guiliana。ここまで黒人が続いたけれど彼は白人で、目指している音楽もヒップホップよりはテクノとかビートミュージック寄り。いわゆるうねるような"グルーヴ"とは違う方向性に進化した形の人だ。彼はMaria Schneider Orchestraの一員としてカムバックしたDavid Bowieのレコーディングにも参加している。

 

 

 

次はこのメンツの中で1人だけジャズ寄りの仕事の方がおおい(あくまで個人の感想です)Marcus Gilmore。おじいちゃんが有名なジャズドラマーのRoy Haynesで、Gilmoreもおじいちゃんと同じくChick Coreaのバックを務めたことがある。1つ目のピアノトリオはテクノに捧げた曲。2つ目はFlying Lotus主宰のBrainfeederに所属するビートメイカーTaylor McFerrinとのコラボだ。

 

 

 

ここまで紹介してきて「どうせ黒人だからできるんでしょ?」「Mark Guilianaだって白人だけどムキムキじゃないか!」と思った方も多いかと思う。しかし次に紹介するRichard Spavenは白人でガリガリだ。さらに言うと背も低い気がする。決して悪口ではない。

Jose Jamesのバックでも活躍する彼はここまで紹介してきた中でも一番異質な感じがする。ロンドンのビートシーン出身だけど、その特徴はヒップホップ的な"うねり"ももっているしグリッドのような正確さもあるというハイブリッド。一番意味がわからない。カクカクした独特のフォームも相まってさらに分からない。2つ目の動画はドラムフェスティバルでの演奏で同期を聴きながらのソロなのでそのカクカクぶりを充分に楽しむことが出来る。

 

 

 

 

終わりに

ここまで見てきて「ジャズじゃないじゃん!」って思った人がすごく多いと思う。でも最初のほうで言った通り、アカデミックに音楽を学ぶ場所として「ジャズ」が機能していて、そこ出身だからみんな「ジャズ」って付いちゃう、みたいな側面は確かにあると思っていて、その優秀な演奏能力を求めているからジャズ・ドラマーが必要とされてるってことなんじゃないかな?と。

最後にこういうことをやってるドラマー、日本にもいるんだぜ!というのを紹介してこの記事を終わろうと思います。1つ目はYasei Collective。2つ目は東京ザヴィヌルバッハの人力スペシャル。二人ともいちおうジャズドラマーでいいのかな?この2人が出てくる対談記事がMikikiにあるのでそちらも良ければどうぞ。

 

 

mikiki.tokyo.jp