maigo-music

音楽の話。from:tokyo, japan

Wayne Shorter Quartet Live

Without a Net 
JAZZ WEEK TOKYO 2014
80th Anniversary Concert
Wayne Shorter Quartet featuring Danilo Perez, John Patitucci and Brian Blade
@Bunkamura Orchard Hall, Shibuya
2014.03.14&15
Official HP: http://jazzweektokyo.com/perfomance_0414.html



JAZZ WEEK TOKYOで来日したWayne Shorter Quartetのライブを見に行ってきました。それも二日間。
昨年は惜しく来日がかなわなかったレギュラードラマー、Brian Bladeを迎えての完璧な布陣のこのバンド。
僕はジャズを聴くようになって以来このバンドが大好きで、というよりもそれは僕にとってのジャズの始まりと言っていいのかもしれない。
すこし恥ずかしいけれどまずそんなことから今回は始めようと思う。


Spiritual Unity僕がジャズを聴き始めた頃に一番聴いていたアルバムはなんといってもこれ、Albert Ayler Trio 『Spiritual Unity』だった。
内容はいわゆるフリージャズ、という形でものすごく簡単に言ってしまえば最初に"テーマ"があってそれが終わるとフリーフォームの即興、そして最後に"テーマ"にもどって終わるというスタイルの音楽だ。
このアルバムにおけるアイラーのソロは牧歌的でもあり黒人的なブルージーな演奏でもあり、叫び声のようなものだった。
これが当時の僕にとってはコルトレーンの『Love Supreme』よりも『Ballads』よりも(どれも父親のCD棚にあったものだ)心地よかった。
 
そんなかなり偏った"ジャズ入門"を果たした僕を次に打ちのめしたアルバムがWayne Shorter 『Footprints Live!』だ。
フットプリンツ~ベスト・ライヴ!これこそ今回来日したこのバンドの1st。ここでは"juju", "Footprints", "Atlantis", "Masquelero"など有名曲が連なる。(そうだと僕が知るのはもっと後の話だが)
このバンドは後に『Beyond the Sound Barrier』というアルバムも出ているが僕としては断然『Footprints Live!』の方が良いと思っている。
僕がこのアルバムに惹かれたのは、方法論的にはアイラーのアルバムとほとんど変わらないように思えるこのバンドは、自由なだけでなく同時に美しい楽曲であるという楽曲と即興の極限の近接みたいなものを見たからだろう、と今としては思える。
当時ジャズ研に入りたてでコードトーンをなぞったソロをとる練習なんかをしていた僕からすれば間違いなくはるか高みの存在に思えた。
地をはうようなベースの上にピアノが空間を作り、そこを自由に飛ぶサックスをドラムが撃ち落とす!みたいなこのサウンドで僕はジャズにはまったといっても過言ではない。


ものすごく前置きが長くなったけれどそろそろライブの話をしようと思う。
 まず2日通して言えることだが、このバンドは一切MCをしない。時間になると照明が消え、メンバーが位置につき、だれからともなく演奏が始まる。
オーチャードホールの広いステージだが、メンバーは新宿PIT INNのステージほどの広さにまとめられていてすごくメンバー間が近かった。ショーターの前とブレイドの後ろにコンデンサマイクが置かれ客席も返しもそこから。ベースはアンプよりラインで出力していた分が大きいかもしれない。
僕は初日は三列目のピアノ側、2日目は二列目センターという超好位置。今年の運はもう使い切ったのだろう。
明確なテーマがあったりなかったりなので観客は音が止んだところで周りを伺いながら拍手をして、ダニーロが頷き、ショーターがちょちょっと指示をだして、次の曲が始まる。 この繰り返しだ。
演奏時間は2日ともアンコール含め90分強で、2日目のほうがすこし長かった。
2日間の違いとうことにもう少し触れると、2日目のほうが新曲が多かったかな?という印象。室内楽団を迎えた新しいアルバムを製作中とのことでそこからの曲だったのだろう。ブライアン以外のメンバーは大量の譜面を持ち込んでいた。

演奏に関して言えばショーターは文句なしにバリバリとサックスを吹いていたし、バック陣のインタープレイもありありと見ることが出来た。
しかし(恐らく)新曲のなかではダニーロが頑張って譜面を追って空気を作り、パティトゥッチがそれに合わせ、ショーターとブライアンは自由とメンバー間の温度差みたいなものを少し感じたりしたのだけれど。
キメキメの曲ではブライアンとダニーロがお互いを窺いながら爆発点をあわせたり、あるいはスカしたり、パティトゥッチとブライアンのコンタクトもものすごくあった。
僕はこれを見るために行ったようなものだ、と思っているあたり僕はやっぱり即興が一番好きなのかもしれない。

やっぱり見どころとしての一番はブライアン・ブレイドで、前にドラムマガジン芳垣安洋ブライアン・ブレイドについて「彼は観客の耳を音量の小さいところにチューニングしてしまう。だから彼の放つ普通の一発が何倍も大きく聴こえる。」というようなことを書いていたけれどまさにそのとおり。シンバルをかするようなものすごく小さな一音まではっきりと聴こえていた。大きい音から小さい音まで一音一音が洗練されていて僕はライブの七割くらい彼に釘付けだったように思う。歌心のあるドラマーとはよく言ったもので彼はものすごく周りの音を聞いていることを感じた。
twitterでは「リミッター解除されている」と言われていたが、やっぱりショーターバンドでの彼は格別だ。

僕が一番印象に残ったのは音源から想像されるようなストイックな禅世界のような雰囲気ではなく、すごく和やかで楽しそうな雰囲気だったこと。
周りの演奏を聴きながら楽しそうに楽器を選んだり頷いているショーターはちょっと予想外だった。
そしてそんな雰囲気でありながら彼の楽曲はすごく多幸感に満ちていて、ラストは2日ともスタンディングオベーション。アンコールの拍手と歓声は今年一番だった。

あと何回彼が来日するかわからないけれど、間違いなく毎回行ってやろうと思えるようなライブでした。