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音楽の話。from:tokyo, japan

Mark Guiliana / My Life Starts Now

My Life Starts Now[日本語解説付]

member:

Mark Guiliana - drums, electronics
Stu Brooks - electric bass
Yuki Hirano - keyboards
Michael Severson - guitar
Jeff Taylor - voice
Gretchen Parlato - voice
Meshell Ndegeocello - spoken word

 ジャズ・ドラマー、Mark Guilianaが自身の名義で今年二枚同時リリースした最新作のうちの一枚。

 もう一枚の『Beat Music: The Los Angels Improvisations』は『Beat Music』、『A Form Of Truth』(2013)に続いて"Beat Music"名義での打ち込みと生ドラムが半々で文字通り"ビート"を意識したエレクトロな作品だが、それとは対照的に全曲生ドラムで曲を意識したバンドプロジェクトでの作品だ。

 

作品に触れる前に少しMark Guilianaというドラマー自体の紹介をすると、僕はやはり2002年から2008年まで在籍していたベーシストのAvishai Cohenのトリオでの活動が一番初めに浮かぶ。中でもピアニストのShai Maestroが入った『Gently Disturbed』でのトリオは素晴らしかった。このトリオのライブ盤である『Night In Magic』と彼の参加した、妻でもあるボーカリストGretchen Parlatoのアルバム『Live In NYC』は僕の去年の年間ベストに入っている。

 今年リリースされたもはやジャズ・ピアノの大御所となったBrad Mehldauとの共作『Mehliana: Taming the Dragon』ではディレイの掛かったキーボードを弾くBrad Mehldauにも驚かされたがそれについていき、ときには挑発するようなMark Guilianaの硬質なドラミングも目を引いた。

 今年リリースされたDavid Bowieのアルバム『Nothing Has Changed』ではMaria Schneider Orchestraとの共演もはたすなど、今まさに注目のドラマーであることに間違いはない。

 

 三時間の即興演奏をミックスしたという30曲が収録された『Beat Music: ~』に比べてこのアルバムでの彼のドラミングはとてもミニマルで無駄を省いたものが多く、そのかわりに曲ごとに音のテクスチャーを変える事でレゲエの様なリズムやスポークン・ワーズの中でも最小限の音で楽曲の雰囲気を表現しきっている。

 即興的な要素があまり見られない点もBeat Musicと対照的だが、時に16ビートで疾走し時にバスドラでの四つ打ちだけに徹する彼のドラムはとても洗練されている。

 このアルバムでの彼のドラミングの面白いところは、Mehlianaでのスタイルに比べてミニマルな彼のドラムはキーボードやベースのサウンドが前に出るところでは驚くほど簡単に後ろに下がり、背景に徹するところだと思う。このバンドサウンドとミュージシャンのエゴとのバランス感覚は、例えばRobert Glasperが自身のバンドでアドリブ・ソロをとらずにコードに徹する事と通じる点があるように感じた。このアルバムにはいわゆるバース・スタイルでのソロの掛け合いなどという場面は見られず、彼はあくまで背景なのだ。それでもサウンドをまとめ、リードしている。ジャズドラマーのリーダー作としてはかなり稀有なアルバムだと思う。

 彼のドラムを目当てに買うと少し物足りなく感じるかもしれない。全体像を知りたいなら是非『Beat Music: ~』も合わせて聴くことを強くおすすめしたいと思う。

 

 

My Life Starts Now[日本語解説付]

My Life Starts Now[日本語解説付]

 
Beat Music : The Los Angels Improvisations[日本語解説付]

Beat Music : The Los Angels Improvisations[日本語解説付]

 
Mehliana: Taming the Dragon

Mehliana: Taming the Dragon

 
ナイト・オブ・マジック

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