6/26 高橋健太郎×和田博巳「アナログ録音の真髄をハイレゾで聴く!~ハイスペック音源から聴こえるスタジオの音、エンジニアの音とは?」
6/26は新宿のイベントスペースduesで行われたイベントに行ってきました。こんな感じのイベントです。
『スタジオの音が聴こえる』(DU BOOKS)の刊行を記念し、音楽評論家にしてレコーディング・エンジニアの高橋健太郎と、
伝説のバンド「はちみつぱい」の元ベーシストにしてオーディオ評論家の和田博巳。
録音芸術とそれを生み出すレコーディング現場、そしてミュージシャンの知られざる逸話……
音楽の裏の裏まで知り尽くす二人が、本書に登場するアナログ録音黄金時代の「スタジオの音」を再生しながら、縦横に語ります。
なお、今回は再生する楽曲のほとんどをハイレゾ版で用意。それに合わせて、TADのスピーカーとプリ/パワーアンプ、exaSoundのD/Aコンバーターを組み合わせた、ハイエンドオーディオによるハイレゾ対応システムを和田氏に選んでいただきました。
マスターテープの状態まで克明に聴き取ることができるハイレゾ音源で、スタジオの音を追体験していきます!高橋・和田両氏が実践する、プロならではのハイレゾ再生時のテクニックが聞けるかも?
さらに、本書には掲載できなかった貴重な写真や資料まで飛び出す「スタジオの音が聴こえる」拡張版ともいえるイベントです。
インフォが長いけれども、要は『スタジオの音が聴こえる』に出てきたスタジオで録音された音源をめっちゃいい音響機材とハイレゾで聴く、というイベントです。僕にとってはハイレゾ初体験だったわけでかなりわくわくして向かいました。
当日のプレイリストを振り返ってみます。
(今回は古い音源だから試聴しか出来ないiTunesを貼るけど、全曲聴きたい人はYouTubeなりで調べてみてください。そしてどうせならCDやレコードを買おう。)
Olynpic Studios - オリンピック・スタジオ
イギリス、ロンドンのバーンズにあるスタジオで、The Rolling Stonesが本拠地にしていたスタジオで、その時期にはLed Zeppelin、The Who、Jimi Hendrixがアルバムを残している。最先端の機材と若いエンジニアの力でもって人気が高かったというスタジオ。ここではGlyn JohnsとEddie Kramerという2人のエンジニアを挙げ、「同じスタジオでもエンジニアが違うとだいぶ音が変わるよね」という話をしていた。
The Rolling Stones『Let It Bleed』(1969)から"Midnight Rambler" [Glyn Johns]
この後Eddie Kramer録音で何を流していたか失念してしまった(←)のだけど、とりあえず同時期に彼が録音したTrafficを貼っておこう。
Traffic『Mr. Fantasy』(1967)から"Dear Mr. Fantasy" [Eddie Kramer]
Bearsville Studios
大西洋を渡ってウッドストックへ。ウッドストックのミュージシャン村で村人達がセッションするような温度だったといわれるここでの録音は、荒っぽいと言えばあらっぽいんだけどそのリラックスしたムードが伝わってきてとてもいい感じだ。
The Band『Cahoots』(1971)より"The Moon Struck One"
Bobby Charles『Bobby Charles』(1972)より"Small Town Talk"
A&R Recording
ウッドストックからニューヨークへ。グラミー賞を14回も受賞した名プロデューサー Phil Ramoneのスタジオ。Ray Charles『Genious of Ray Charles』やBilly Joel『52nd Street』といった名盤を生み出したスタジオだ。
Stan Getz & Joao Gilberto『Getz/Gilberto』(1964)より"The Girl From Ipanema"
Paul McCartney『RAM』(1971)より"Uncle Albert / Admiral Halsey"
Phoebe Snow『Second Childhood』(1976)より"Sweet Disposition"
Muscle Shoals Sound Studio
アラバマ州のマッスル・ショールズ。ハウスバンドがオーナーという形をとっていたこのスタジオからはポール・サイモンの『ゼア・ゴーズ・ライミン・サイモン』やロッド・スチュワート『スターティング・オール・オーバー・アゲイン』といった名盤が生み出された。 Muscle Shoals Rhythm SectionやMemphis Hornsとか、この時代のR&Bとカントリーが融合したような作品のクレジットを見ていると見つかるだろう。ここではストーンズが再登場。
The Staple Singers『Be Altitude: Respect Yourself』(1972)より"Respect Yourself"
The Rolling Stones『Sticky Fingers』(1971)より"I Got the Blues"
Tony Joe White『The Train I'm On』(1972)より"I've Got a Thing About You Baby"
A&M Recording Studio
イベントも終盤、大西洋を渡ってハリウッドまで来ました。かつてはチャーリー・チャップリンのスタジオがあったという場所にあるのがA&M Recording Studio。優秀なエンジニアが多数居たこのスタジオ。エンジニアについては是非本を参照して欲しい。ここでの二枚のアルバムは同年に録音されたということで、スタジオのこっちでジョニ・ミッチェルが歌ってて違うスタジオではカーペンターズが...とか考えるとわくわくする。
Joni Mitchell『Ladies of the Canyon』(1970)より"For Free"
The Carpenters『Close to You』(1970)より"We've Only Just Begun"
Wally Heider Studios
最後に辿り着いたのがカリフォルニアのアメリカンロックを牽引したウェスト・コースト・サウンドなスタジオ。このスタジオの音源は一枚しかかからなかったような。何の曲が掛かったか失念してしまったけれど、このアルバムだ。
Greatful Dead『American Beauty』(1970)
終わりに
イベントは二時間ほどだっただろうか。曲をしっかり聴けたので結構短く感じた。この企画の面白いところは、全てのアルバムの製作が同じ時代にアメリカの中だったりイギリスだったりで起こっていたという事。アナログ→ICへの転換期であることから、それぞれのスタジオとエンジニアが様々な工夫をこらしており、それ故にサウンドに特徴が生まれたり...という偶然の積み重ねでこの時代の録音は面白いということだった。
思えばこないだ合同で出版記念イベントを行っていた「ポストロック」は、そういう意味ではプロツールスの登場でミキサー→ソフトウェアという転換期に発生したムーブメント、面白い音楽であるという点でこの二冊の本には共通点があると言えるかもしれない。
僕としては初めての「ハイレゾ」体験だったわけだけれど、感想としてはアナログの音質的な互換、ではなくアナログとは全く違った魅力であった。これは音源だけじゃなくてその他の機材の性質にもよるのかもしれないけれど。
アナログは迫力というか音の勢いに魅力を感じるけれど、ハイレゾはその解像度の方に耳が行くというか。繊細な音楽の隅々までクリアに聴きたい時にはハイレゾ、ドカーンと聴いて楽しみたいならアナログといった感じで使うのがベストなのかな、と思った。(そして何よりアナログには物としての良さがあるよね)
僕がこの記事を書き途中で放置している間に世間ではApple Musicなるものがあらわれて、フィジカルな物としての音楽の形が変わっていくのだろうけれど、スタジオには人間がいてドラマがあってっていうのがいいなぁと思いました。